essay

海蛇座の心臓 - ALFRDの1stアルバムを振り返る

ALFRDの、そしてmakranの第一号リリースとして世に放たれ、早くもリリースから1年弱の時間が経った今、改めてALFRDの1stアルバム『ALFRD』をプロデューサー視点で振り返る。

Text: Ryuuta Takaki

海蛇座の心臓
赤い光

“春の星空に東西に大きく跨る星座を見てみましょう。これは88星座の中で一番大きな星座、海蛇座です。海蛇座の心臓部分で赤く輝く星が見つかるのではないでしょうか。この星は周囲に目立つ星がなく、寂しげにポツンと輝いていることから、アラビア語で「孤独なもの」を意味するAlphard(فرد|الفرد)という名が付けられました”

そんな何気ないプラネタリウムのガイドを聞き、彼の頭の中で歯車のカチリと噛み合う音がしたのだろう。おそらく当時の彼の心境や音楽活動への姿勢に重なったのか、彼はその聞き慣れない星の名前を新宿の珈琲西武に持ってきた。

「名前これで行こうと思うんですけど」

ALFRD、新宿珈琲西武にて爆誕

Photography: Sorami Yanagi

Hair & Make up: Tomoca Kitsunai

Photography: Ryutaro Izaki

Collage: Ryuuta Takaki

ピアノによる4つのコードのループ、硬度の高いベースと当時としてはオールドファッションに思えるブロステップ的ビートパターン。 デモソング”sadi.wav”をALFRDに渡す。

そのsadiというデモは、のちに『孤独な星』と名付けられ、その後のALFRDの方向性を決定的に運命的に指し示しす事となる。そして彼自身の存在そのものを表す一曲となった。

sadiを一通り録音した帰り道、夜空の彼方に一筋の迅雷が走る。その暗闇を裂いた光の筋は強烈なイメージをALFRDの脳に焼き付けたに違いない。孤独な星の歌詞、宇宙から飛来した者というALFRDの設定、のちに製作されるミュージックビデオ、その随所に一筋の迅雷が象徴するイメージが散見される。そしてその雷によって本当にALFRDという人格が彼の中に宿ったのかもしれない。

或る夜の落雷

Video Director & Camera : Shunsuke Nakamura

Dancer: Kiko Noguchi

深宇宙への処女航海

海蛇座に住む青年が、地球という惑星からある便りを受け取り、孤独な宇宙の旅をする。これが『ALFRD』の軸となる設定である。

離陸の一曲目となるTONIGHTに始まり、深遠な宇宙を漕ぎ出すKAI、光を捉え引力によってスイングバイするように加速すRIDE/HYDRA (prod.KRICK)、淡い記憶と忘却の狭間で微睡むようなOBLIVION(prod. Makoto Nagata)と続く。そしてアルバムはここまでの流れが第一部として構成されている。続きの物語は是非アルバムをお聴きいただければ、、

このように本作は量子論や光の性質を暗喩するセンテンスが綴られた一編のスペース・オデッセイとしても構成されている。

一方で、サウンドはJ-POPを主軸にしながらも、ハウス色の強いダンスチューンに始まり、IDMを匂わせる砂嵐のようなTrap、寝室で一人歌うように紡がれるLo-Fiヒップホップまでジャンルを広く横断する。ゲストプロデューサーにOpus Innの永田誠、BLACK BASSのKRICK、IPPEIを、客演にはmakranからShnayhon Yosoを迎えアルバムは完成する。

こうして海蛇座の星座位置を表すアートワークとともに、静かで広大な深宇宙への航海が始まったのであった。

Artwork: Ryuuta Takaki

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